12. 最後の日
このGWは遊びに来たのではない。同居をスタートさせたGW。
オクトーバーフェストから戻っても、翌日になっても、彼は戻らなかった。
会話が全てケンカ腰。発せられるのは文句と命令。
文脈はない。突然思いついたら言ってくるだけ。
これから一生一緒に生活を共にする相手に言っているとは思えなかった。
言っていることが何一つ理解できなかった。
一週間もたないと思っていた。
家に帰ればいいじゃん。
今まで俺の役にたったことをしていない。
ここに来てほしい、なんて言ったことない。
俺は今まで一度も私にひどいことを言ったことはない。
俺に迷惑をかけてばかり。
シェアの人達用の生活規則を私用に作り直して渡すからその規則に従って。
俺のルールに従うべきだ。
希望意見を言いたいならマンションのローンを対等に払ってから言って。
俺の家だ。
シェアをしてた人達は家賃を払っていたから言う権利はあるし、散らかしても仕方ない。
いつ片づけ掃除家の事をやるのか観察していた。
(まだ来て2,3日。使ったものは普通に片づけている。GWだからと休日モードの遊びスケジュール組んだ。なのに、都合が悪くなると「仕事が溜まってる」と自分は仕事部屋に籠ってしまう。あなたは昨日までと何も環境変わらないけど、私はここでの生活を今スタートしたばかり…)
密室の家庭内で二人だけのときに起こるこんな会話、空気、生活に、私はどうやって向き合っていけば良いのだろう…?
初めてパニックになった。
そして、「証拠だ」と言って何でも記録録画する。
暴言に耐えられずやることやってから許可をもらって外に休憩に出たら、「自分が私を探した証拠だ」と探しに来たときに録画していた。
私を心配して探しに来てくれたのではない・・・恐怖と悲しみ。
こんなことをする男性を私は信じていけるだろうか…
話し合いにならない話し合いはいつもと同じ。
今まで一緒に過ごしてきた全ての時間、未来に向けてしていたこと全て、私の存在人格、全て否定された。
朝も晩もなくずっとこんな言葉しか言われず、会話なんてなく、気がおかしくなりそうだった。
必死で考えた。
出て来た朝は戻っていた。
表情からそう感じた。会話や口調が昨日までとは全く違う。
だからと言って、「いつもの穏やかな優しい人に戻ったから良い」とはもう思えなかった。
2回目の、本当の最後のさよならをした。
マンションの鍵とiPhoneと、渡された生活規則を返却した。
帰ります、と伝えたら「そうなんだ。気を付けて」と言った。
家出ではない。ケンカではない。二度とこの家には戻らない。この人とは結婚できない。
私が家を出た理由をきっとあなたはわかっていない。
ヒステリックに勝手に出ていった、そう思っている。
だから「戻っておいで」とメールができる。
許してあげるから戻っておいで、とでも思っていたのでしょ。
でもそんなこともうどうでもよかった。
悲しみと恐怖と絶望。
簡単に約束が覆される悲しみ。
支配される恐怖。
言葉で追い詰められる恐怖。
いつ豹変するかわからない恐怖を抱えて、一生こんな生活になる恐怖。
もう一度、信じてみようと思ってしまった私がバカだった。
この人は、してはいけないことをした。
けれどそのことを伝える力は私には残っていなかった。
長い時間かけて耐えて乗り越えて立ち直った。
トラウマは封印して忘れてスタートした。